スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
にほんブログ村 小説ブログ 歴史・時代小説へ
web拍手 by FC2

--/--/--(--)
スポンサー広告

「めらんこりあ」(2)


明恵は応接間につながる廊下から、障子に身を隠して部屋をのぞいていた。

その青年は非道く不機嫌な顔をしていた。
招いたのは時の陸軍元帥、内務卿である。普段から懇意の教官はともかく、耕三郎でないもう一人は、明恵から見てもその緊張が理解できた。単純に動きが硬かった。祖父は偉いのだから、その反応は間違いではないと思った。

だから余計、耕三郎を注視した。

祖父が来るまでの間に、教官が二人の生徒を導き、席に着き、祖父のことを二、三、述べた。確か人となりがどうだとか、その気性の荒さに昔は苦労したものだが、とか、そのような内容だったと思う。
「舎人」と呼ばれた青年がしかめっ面を指摘されたので、明恵はその名を知った。とねり。へんな名前。教官ともう一人の名前は、忘れた。

「やあ、待たせた」

祖父は明恵の背中から現れて、ぽんと頭に手を置くと、部屋に入るよう促した。明恵は多少抵抗したが、祖父の大きな手はその背中を押して、三人の前に対面し、明恵をその横に座らせた。祖父は最近、明恵が膝に乗るのを嫌がることを知っていた。

 用ということも無い、ただの雑談のようだった。祖父と面識のある教官が、無作為に教え子を引き抜いてきたという感じで、耕三郎をのぞいた三人で、昨今の社会情勢や、軍内の空気や、祖父の若いころの話などをしていた。

「舎人は、出奔してきたんですよ」

教官に話を振られ、陸軍元帥たる祖父の視線を受けても、「はあ」と言ったきりで、特段取り繕うこともしなかった。

「出奔とはいうものだな。どうした。両親と喧嘩でもしたのか」
「喧嘩ということではありませんが、家の考え方と、自分の考え方が大きく違ったもので」
「それで、家を出たのかい」
「軍人ならば、金もかからないかと」

明恵は呆れた。そのような不純な動機で、崇高なる帝国軍の将校になるというのか!恥を知れ!
まさにそう叫ばんとすると、隣で祖父が膝を打ちながら笑った。

「ああその通りだ、そういうことなんだよ。だれが好き好んで戦場へいくもんか。金の無い、働き口の無い連中に、無償で働き口を、住む場所を与えてやっているのが軍隊だ。貴様はまさに我々の意を汲んでいるというわけだな」

教官ともう一人の生徒は隣ではらはらとしていた。耕三郎は特段意に介することも無く祖父のことを眺めていた。そのときふと、明恵は耕三郎と目が合い、驚いて目をそらした。なぜそうしてしまったのか、下を向いて必死で考えた。体がかっと熱くなった。

「問おう、舎人耕三郎。貴様、今の陸軍をどう思う。ご一新以来、国内の内乱を意識して創設された陸海軍は、今や大陸へ進出するための先兵となりつつある。今度はどうやらどこか大きな国といくさをするらしい。この国は勝てるのか。この陸軍は国に勝利をもたらすことができるのか」

祖父はえらく楽しそうだった。今は内閣の閣僚である祖父は、政財界の連中とこの家で喧々諤々としているが、そのときの何かを諦めたような空気ではなく、この目の前の、えらく不機嫌な青年の次の言葉を、童心のように心待ちにしているようだった。
 耕三郎はちょっと困ったように小首傾げ、改めて祖父に対面すると、こんなことを言った。

「軍は国の一組織。組織は意思を持つべきではない。その意味において私が意見すべきことは何もないが、今後、ただの組織の意見がまかり通ることになるとすれば」

 耕三郎がふと顔を上げた。

「わが帝国陸軍は、根本から勘違いの組織となる。それが、国を滅ぼすことが無ければよいと、今はそう思います」


にほんブログ村 小説ブログ 歴史・時代小説へ
web拍手 by FC2


| ホーム |
Page Top↑
▲ Page Top
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。