大陸の覇者(7)




爛華は駆ける馬上から翔の背中を見ていた。後続は九騎、翔の進言通り爛華を入れて十騎が翔に従っている。
生高攬把は、爛華の部下が連れだって自宅を脱出。おそらく無事だろう。馬を叱咤する声が聞こえる。村人の居住していた家々を包む炎は、ますます勢いを増していた。そのすぐ横を、村を取り囲むように疾走している爛華たちも、すぐ隣にその熱気を感じている。

ここに来るまでに、いくつかの死体を見た。敵に撃ち殺されたもの、殴打されたもの、焼け出されたものこれらはすべて、村の非戦闘員。そして自分たちが討ち果たした敵と、討たれた仲間。呉風が爛華に馬を並べた。翔の背を追いつつ、呉風が言う。

「信用できるのか」

 爛華も、まだ確証を得られずにいた。生高がそうしろと指示をしたのだ、爛華の今、ここにいる理由はそこに等しかった。翔の戦闘員としての実力は知っている。三年前まで、いくつもの戦場を共にくぐり抜けてきた。そうしてあの事件だ。武器を持たぬ先代の家族はともかく、武勇名高き先代梁続山当家、そしてその有力な後継者とされた梁文秀をたった一人で討ち果たした男。
 だがそれは、非常時の話だ。爛華の知る翔は、普段はどこか体の栓が抜けていて、いつもぼんやりと空を見上げているような青年だった。中国語の勉強のために子供向けの本を眺めながら、放牧された馬を眺めながら、馬の機嫌の話などしていた。
 少なくとも、あんな事件をおこすような人間ではなかった。

「わからない、だが信用するしかない」

 呉風の答えを待つことなく、爛華は馬を進めた。翔は馬の速度を落とすことなく走り続けている。やがて指定の箇所に来た。高粱畑の手前、馬さんの家の角、四手に別れろという指示に、3、3、2、2の数で四方に散った。

 組み分けは、走り出す前に翔によって指示されている。翔の下に二人、爛華の下に二人、残った4人を二つに分けた。そうしてまた、ひたすら走り続ける。止まることなく、目の前の敵をなぎ倒す。

 集落は、谷にある。村への入口は3つ。北京へつながる幹線へ続く道が一本、村人たちが営む田や山へつながる道が一本、そして村人しか知らぬ細いけもの道が一本、森の中へ続いている。お椀のようなくぼみは天然の地下要塞のようになっており、あらゆる道は上から下へと続いている。

 翔は村を駆け巡り、その地形を頭に叩き込んだ。牢から出て初めてみる地形ではあったが、当初の想定で攻略は可能だと判断した。
 すれ違いざま、翔は爛華を呼び止めた。

「後続が入り始めた。数は五百程度まで膨れ上がるぞ」
「到着までの時間は」
「十分と言ったところか」

 そこまで言って、爛華は心中の焦りを部下に悟られないことに気をまわした。見方の騎馬は十。相手は直にその五十倍となる。
 味方の二騎が、敵騎馬に追われていた。爛華の部下は敵の馬上からの攻撃をかわし、なぎ倒した。そうしてまた後方へ駆けて行った。

「どうする」

 翔は、村で一番高い構造物を見やった。物見用の櫓。

「弾薬は残っているのか」
「残念ながら、倉庫に山ほど。あれを持ち出す時間があれば、もう少しマシに戦えたんだがな」
「だろうな」

 見越していたというふうに翔は弾薬倉庫に向かった。爛華と残りの四騎もそれに従った。
 翔が幽閉されていた牢のすぐ隣、冷え冷えとした混疑土の倉庫には、手付かずの爆薬が残されていた。翔は長銃を手に取り、弾を装填し爛華に渡した。

「できるだけ持ち出せるか」

 翔、爛華と部下でそれらを櫓の下に運んだ。櫓は村のほぼ中心、村の一番大きな入口の目の前に位置している。それを村の数か所に仕掛け、最後は翔が確認した。
 村の中を駆け巡っている敵騎馬はおよそ百といったところか。そのほとんどは訓練されたものではなく、いわば子飼いの私兵であろう。
 設置が終わると、あとは爛華の部下に遊軍として村を駆け回ってほしいと伝えた。敵を引き付けるためだ。爛華がそれに従おうとしたが、翔は止めた。

「おまえには別の仕事がある」

それを見ていた呉風が、「指揮は任せろ」と言って、にっと笑った。戦場では爛華の部下であるが、普段は兄貴分である。爛華は心強かった。「すまない、任せる」といってほっとしたように力なく笑った。「帰ったら酒盛りだぞ!お前のおごりだ!」そう言って呉風は仲間を追った。

それを無言で見届けて、翔は馬を駆った。敵の指揮官が近くにいるはずだった。村の入口に、それらしき人物を見つけた。爛華もそれに気が付いたらしかった。爛華は手持ちの銃を装填した。翔はそれを止めた。
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