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吉岡輝也の憂鬱(3)

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 結局、その面倒事を輝也が引き受けることになった。
 というのも、下宿先では同期四人が一つの部屋をあてがわれていて、輝也と雄一郎は半端数として定員四人の部屋を二人で利用している。
 要するにルームメイトなのだ。

 入校式の日に雄一郎を一目見て、「あのときの彼女」であると直感した輝也は、それと同時にあえてその事実には深く踏み入らない様にしていた。それこそ、面倒なことになる。あのとき、「彼女」は輝也を見て、「あなたが拓真の新しいお姉さんね」と言った。向こうは、輝也のことをそう認識したらしい。実際、輝也もあの時点では、雄一郎のことを「拓真の実の姉」と認識しているのだ。ここで雄一郎を拓真の姉であると指摘することは、いろいろとやっかいなことになるのだ。そのようなことは、極力避けたい。
 そんなわけで入宿する日に二、三言言葉を交わして以降は、ろくに会話をした記憶がない。雄一郎は前述のとおり極力人との接触を避けているようであったし、輝也もでき得る限りでは煩わしい人付き合いなどはご辞退申し上げたいところなのだ。週末に蒲田の白河川邸に戻るとき、おそらくこのことを知らないわけのない当の本人に目で訴えたりもするのだけど、御大はその輝也の意図を汲み取ったうえで、笑顔で黙秘を貫いている。輝也から雄一郎の話題を切り出させることで、「彼女」への関心を抱いている確信につなげるつもりなのだろう。輝也はそれが面白くないので、とりあえず今まで、自分からその話を白河川に振っていない。


「舎人、少しいいか」

 
 金曜は夕食後すぐに点呼があり、そののちは月曜日の起床まで自由行動が許されている。夕食を腹におさめて一度部屋に戻り、舎人も帰宅の準備をしているようだった。輝也はそこで声をかけた。


「何か」


 相変わらず素っ気のない声が飛んできただけだった。輝也は特に意に介せず、「話がしたいんだが、時間を取ってもらえるか」と事務的に返した。


「軍務に関係のあることですか」


 これまた事務的な返答が帰ってきた。2ケ月も共に寝起きしているというのに、他の同期と同様、輝也もまた雄一郎にとっては油断すべからざる人間には変わりないのかもしれない。


「まあ、あるといえば」

「具体的には」

「お前の今後の周囲との関係性について」

「最低限は保てていると自覚しています。何か問題でも」

「任務に置いては機械的な人間関係を築けるからまだいいが、とりあえず今のお前の態度が、クラスに波風を立てていることは事実なんだ。何か気に入らないことでもあるのか。こちらとしてはできうる限りお前の望むような形にしたいと思うのだが」

「別に何も。これは私の問題です。クラスへ悪影響をもたらしているというのであれば、今後は態度を改めましょう。皆に気を使ってもらうなど無用。迷惑です」


 では、と言って部屋を出ようとする雄一郎を輝也は引き留めた。けったいそうな顔が「まだ何か」といって輝也を向いた。


「あ、いや、別に」


 雄一郎は輝也の手を払うようにして部屋を出ると、それとわかるような音を立てて扉を閉めた。輝也はいささか呆然としている。
 本当は、雄一郎を女だと直感はしていても、その確信は持てずにいたところだったのだ。さきほど掴んだ手首が、驚くほど華奢であったことに気が付き、雄一郎は女なのだ、と妙に得心がいったような気がしたのだ。それで、思わず声をかけそびれた。

 しまった、これでは何も解決していないじゃないか。

 呆然とその場に立ち尽くしていたが、はっと我に返り、輝也も荷物をまとめ始める。今日蒲田に帰って、もしあのタヌキ親爺がいたなら、今日は「彼女」のことを聞いてやろう。これはおれ自身の「彼女」への関心ではない。拓真の実の姉のことであり、クラスの協調性にも関わる重要な案件だ――。


 
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2011/12/10(土)
3、吉岡輝也の憂鬱

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