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裏切りの祖国(2)

 看守は桔華の顔を何やら検分するように眺めていたが、桔華の方が先に「最上桔華と申します。生まれは京都、今は職を得て仙台に」と言った。看守の方はどうやら桔華のいうことには嘘偽りはない――彼女が日本人であると納得したようでったが、もう一度ふんと鼻を鳴らして、再び怒声を荒げた。

「できぬといったら出来ぬのだ!貴様が奴らの仲間でない証拠がどこにある」
「大切な仲間です!幼いころから共に育ってきた兄弟です。才人が人を傷つけるようなことをしないことはわたしが一番知っています!」

 桔華の肩越しに身を乗り出してきた俊承をさらに抑えるように、桔華は続ける。

「では、どうすれば本人と対話ができますか」
「刑が確定してからだ」
「かれはどんな罪を犯したのです」

 看守はふんと鼻を鳴らし、少し身を引いた。

「街宣騒擾、及び讒謗律条例違反容疑だ」

 がいせんそうじょう、ざんぼうりつ。桔華は自分の記憶の中の法律の知識をようやく引き出しているその時、俊承が後ろで声をあげた。

「その通り、日本は多くの先進国がそうであるように、立派な法治国家です。ならば『疑わしきは罰せず』。違いますか」

 看守はちょっとあっけにとられたようであったが、我に返るとまた顔をしかめ、「貴様ら、いいかげんにせんと連中と連座させるぞ」と身を乗り出してきた。

「何の騒ぎだ」

 若い将校だった。看守はその姿を確認するなり、直立不動に敬礼を掲げ、「お勤め、ご苦労様であります!」と歯切れよく宣った。
 将校は踵をそろえ、返礼する。四〇歳を過ぎているだろう下腹の出張っている看守よりも随分若く、桔華はもしかしたら自分よりも若いのではないかと思ったほどだった。

「先日の清朝革命派による騒擾事件の犯人を連行しましたところ、その仲間を名乗る二人が容疑者の一人に面会を求めてきているのであります」
「清国人か」
「それが……」

 将校は軍帽を脱ぐと桔華と俊承に歩み寄り、まずは小さく一礼した。

「わたしは帝国陸軍仙台第四連隊付補佐官黒澤修吾中尉。東北憲兵隊司令部長が任務に付き不在のため、代理でこちらの官舎を預かっている。用件はなにか」

 桔華は軍人というものに抱いていた偏見を随分改めた。見ず知らずの自分たちに、まずは自らの正体を明かし、こちらの要件を改めてくれた。この人になら話が通じるのではないかと思った。

「大切な友人がここに連れてこられたと聞き、居てもたってもいられずにこちらまで参りました。かれが法を犯すようなことをするとは思えません。ですからまずはかれに、何があったのか聞くべきだと思いました」

 俊承は黒澤にまっすぐと相対し、そう言った。感情をぶつけ合っていた先ほどとは違う落ち着きだった。どうやら俊承も、この黒澤という若い将校と話をしてみようという気になったらしかった。

「憲兵隊は、無実の人間を連行することはない。貴様の言う友人が本当に何もしていないのなら、ここにくる理由は無い」
「それを確かめます。才人に」

 黒澤は俊承の顔をじっと見つめていた。そうしてふと視線を桔華にそらして「あなたは」と言った。

「日本人のようですが、貴様は」

 俊承は少し躊躇い、しかし表情を引き締めて言った。

「清国人です」

 桔華はあっ、と思った。その問いかけは、俊承にはあまりに無情だと思った。

「そうか」

 黒澤は是とも非ともいえないような間の後にそう、無感情に返事をし、官舎に振り返った。

「『疑わしきは罰せず』だったな。なるほど、一理ある。憲兵隊の判断が間違っているとは思えないが、それならば本人に確認してみるといい」

 黒澤は看守に声をかけ、官舎に向かって歩き出した。
 コンクリートの床に、軍靴の音が甲高く響いた。

 俊承の顔を見るより早く、桔華は黒澤のあとを追う。俊承もそれに続いた。





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2011/08/13(土)
5、裏切りの祖国

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