桜花往生

kanayano版日本近代史。

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2010/09/21(Tue)

1913年、上海(1)

 ***



 1913年は、大陸の年号で中華民国2年。日本の年号は大正2年であるから、奇しくも日中同時の改元という大きな節目を迎えたことになる。

 上海、「湖南楼」。時間は夜。
 義和団事件以後、列強によってアジアに建設された欧米風の街の中にひときわ目立つ、赤い砦に緑の竜をあしらった門構え。その入り口に黒塗りのセダンが甲高いブレーキ音とともに停車した。
 門の前に立っていた支那服の小男が、車の後部座席のドアを開ける。降り立った男は、「北条」財閥社長、北条古月。ステットソンの黒い帽子、カシミヤの黒い外套。自動車のドアが閉まり行き過ぎると、木枯らしのような鋭い風が男の外套を翻した。古月は帽子を押さえながら、小男の後を追って竜の門へ足を急がせた。

 楼閣の中は狭い通路のようになっていて、一つ一つの個室の入り口には覆い布が翻っている。赤い絨毯に赤い壁。部屋と部屋の間に、青磁の壷。虎の掛け軸。ぎゃははと笑う、下劣な男の声と、妓の黄色い笑い声。古月はその一つ一つに嫌悪と苛立ちを感じながら、先導する小男の後ろを歩いていた。
 入り口から何度曲がったか、どこを曲がったのか分からない。そのくらい入り組んだ通路の奥の、さらに扉をくぐった。小男が横扉を閉めると、さっきまでの喧騒が消え、小さなろうそくの光がゆらゆらと揺れるだけの通路になった。ようやく先導する男の背中が見えるような暗さの中で、古月は男を見失ってはおしまいだ、とさっきよりもまじめに男の後を追った。

 小男が立ち止まる。こんこんと扉をたたく。

「来了」
「请进入」

 からりと扉を開けると、そこは日本風の桟敷のようなつくりをしており、部屋の明かりは蝋燭が2本だけ。6畳ほどのさほど広くない部屋。橙に彩られた部屋は、蝋燭がゆれるたびに大きく影が揺れた。4つの席が用意してある。入口から一番奥の上座に日本の陸軍将校、右方には白いワイシャツ姿の若い男が座していた。将校にはこの暗がりにも匂い立つような黒い着物を着た美しい女が酌をしている。さっきの声はこの女か。

「待っていたよ、社長」

 杯に酒を注がせながら、将校は古月にそう挨拶した。古月は将校を鋭く一瞥し、外套と帽子を小男に預けてどかりと座った。小男は頭を下げたまま後ずさり、扉を閉めて姿を消した。

「なんや、人払いもせんのか」
「彼女をそこらの女と一緒にしないでくれるかな。類まれなる知才と、そして人脈の持ち主だ。きっと役に立つ」

 古月は気に食わないという風に鼻を鳴らす。対面している若いワイシャツの男が、古月に杯を勧めた。なんのつもりかとその男の顔を見れば、目が合った瞬間に若い男は微笑んで、「どうぞ」と言った。窪塚幸太郎。東京帝大から大蔵省に現役で入省した、若きエリートだ。相変わらず底知れない、いけ好かない男だと古月は思った。

「上海までわいを呼びつけた理由は」

 若い男の杯を受けずに、古月は将校に問いつける。将校はその古月の様子にちょっと破顔し、女に顎で指示をした。その流れる湧き水のような清らかな美しい動作で、女は膝を進め、古月に杯を勧めた。

「応えんか、久坂廣枝」
「楽弥の杯を受けてもらえないか。今日は懇親の杯だ」

 古月は女の顔を近くで見た。小さな丸い顔に、伏し目がちの長い睫。たおやかに緩む紅の引かれた口元。差し出した女の手は白く、白檀のほのかな香りがした。

「湖南楼を仕切っております、仙 楽弥です。以後、お見知りおきを」

 その口元からあふれる言葉の一つ一つが楽譜にたどり着く前の音符のような、緩やかな抑揚をもつ声だった。古月は杯を受けた。楽弥は小さく一礼をすると、顔を上げて古月の目を見た。そしてにこりと微笑むと、一時、その場を退出した。

「美しい日本語だろう。こう、大陸の暮らしが長いと、日本の言葉や女が恋しくなることがある」

 久坂が杯を飲み干した。杯を膳にがたんと音を立てて置いた。その目は、古月を見据えていた。

「日本は、歩みだすべき道を過とうとしている」

 古月は何も応えない。
 もうじき40歳になろうとするこの青年将校の胸に渦巻く想いが、この場に古月たちを召還している。

「10年前、われわれは大国ロシアとの戦いに勝利し、名実ともに世界の一等国としての地位を得た。軍事力、工業力、技術力、そして国民の国家への衷心、どれも先進諸国に引けをとらない水準にまで成長した。だが今の政府の弱腰ときたら、日露戦時の国債償還にめどが立たず、陸軍の師団増設、そして軍艦の建立には予算が裂けないなどとのたまう! 今欧州では国家の存続を駆けた総力戦の戦争をしているというのに、なぜ同盟国イギリスの出兵要請を前に、軍縮の話など出来ようか!
 もはや華族のみに日本の政治を任せておくことはできない。武官制が改正された以上、われわれ日本人の真の意思を貫いてくれる陸海相を立てねばなるまい。今こそ、来るべき対露、米戦への布石を配さねばならないのだ」

 向かいに座る窪塚が、糊の利いたワイシャツの背をしゃんと伸ばして、久坂の弁舌に拍手を送る。古月は相変わらずだんまりを決め込んでいた。言っていることは理解できると思っている。日和見の連中のいう「外交で解決を」の通じる世界ではない、数年前から古月はそう考えるようになった。武力を持つ相手とまともに話し合いを設けるにしても、同等の火力が必要なのだと思う。「勢力均衡」。これこそが他国と戦争をしないために、国策として講じられるべき思想だ。
 
 耕三郎。いつのまにかわいは、お前の言う「理想」、いうものを、信じられなくなったんやな。

「窪塚、あれを」

 若い男は、一枚の封筒を取り出し、古月のまえに置いた。中には、高名な大蔵官僚の名と朱印が押印しており、久坂の謂わんとする日本の進むべき方向性と、彼に力を貸してほしいという趣旨の内容が書き連ねてあった。その官僚と古月は、財界の社交界を通じて交流がある。

「山岡次官も、社長が私たちに賛同してくださったことを、とても喜んでおられました」
「何度でも言う。わいは戦争がしたくてあんたらの軍拡論議に肩入れしてるんとはちゃう。戦争がしたくないからできることを手伝おうっちゅうだけや。勘違いすんなや」
「しかし、社長の『後方支援』のおかげで、旅順港の整備は格段に進んだ。われわれはそれに深く感謝の意を表したい」

 われわれって誰や。日本人全員の口を代表しているわけやあらへんやろうな。

「つきましては山岡次官より、社長に高官の席を用意したいとのお話があり、本日久坂中佐にお願いして、北条社長にご随行賜った次第です」
「あほ言うな。そんなん熨斗つけられてもいらへんわ。そんなに金が必要なら、三菱の岩崎か安田にでも肩書きぶら下げて話ししたらどうや」

 古月はそう吐き捨て、自分で杯に酒を注ごうとした。そのとき、ぐっ、と銚子をすすめてきたのは、久坂だった。

「日本を、救いたいのです」

 その直向な強い目を見せた男の気迫に流されたか、古月はその日、初めて久坂の杯を受けた。 


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2010/09/22(Wed)

1913年、上海(2)

「会わせたい人物がいる」

 という台詞が久坂の口から出たのは、それから小一時間ほどたったころだった。国家への忠誠と現状への不安、そして「日本が向かうべき方向」とやらの講談が続き、そして合いの手には窪塚からの「社長のご協力に感謝したい」。いい加減に退席の頃合を見計らっていた頃だった。もしかして自分を引き止める算段なのかとも思ったが、『商売は人脈』という己の持論もあって、一応聞いてみることにした。

「へえ、どないな奴や」
「駐支那公使館附海軍武官。舎人耕三郎とも親交のある男ですよ」

 そういって、久坂は杯を口に運ぶ。そろそろ銚子の酒が付きかけた頃だが、頃合を見ていたのか、楽弥が盆に銚子を3本ほど運んできた。

   **

 古月が久坂と出会ったのは、ロシアとの戦争の只中、1904年のイギリスだった。
 当時古月は30歳。知己の陸軍将校、舎人耕三郎は当時31歳で大連にいた。先日の旅順港閉塞作戦以降、起死回生をかけた日本軍は、その戦場を内陸に求めていた。大規模な戦闘に必要な物資を日本から運ぶため、民間からも商船を徴用した。古月は舎人の計らいもあり、醤油問屋で得た潤沢な資金を元手に商船を買い集め、社名を前面に日本軍の物資調達および資金調達に貢献した。古月が軍内で名を馳せ始めたのは、この頃からだ。

 戦時需要は一時的なもの。海運を会社の主力産業として軌道に乗せ、更なる販路を開拓するために、古月はイギリスへ渡ることを決意した。1902年に日英同盟を締結して以降、欧米列強の中では比較的日本に寛容で、しかも産業・経済の発展が著しいからだ。
 しかし、何よりも始めての土地なので知り合いもいない。そんな折、耕三郎が紹介したのが、当時イギリスに留学中の陸大同期、久坂廣枝だった。
 駐英大使館附武官補佐官の久坂は、階級は少佐、年は31歳。イギリスで古月が彼を訪ねると、古月の来訪を心より喜んだ。
 久坂は軍人らしからぬ明朗性に社交能力、そして好奇心を併せ持った、童心のような男だった。特に彼の目に、没落武士の家から一大財閥を築き上げた古月は「類まれなる興味の対象」として写っているらしく、また、陸軍大学校で耕三郎と恩賜の軍刀を争ったほどの明晰な頭脳を持ち、列強の情勢を分析しては、「社長、欧州は今に、とんでもない戦争になりますよ」といって古月をどきりとさせ、からからと笑って次のグラスを古月に勧めるのだった。
 久坂は古月に商売相手としてめぼしい知人をいくつも紹介し、古月が「なかなかうまくいかない」とこぼせば、どうやって相手を丸め込むものなのか、極東の日本人相手に髭顔の白人の方から握手を求められ、かなり有利な取引を結ぶことになったりした。古月がお礼にと久坂を誘えば、「私はなにもしていませんよ。社長のお人柄でしょう」とやはり笑う。

 こんな久坂にも、一つ苦手なものがある。
 他でもない、それは古月の古い友であり、久坂の同期でもある舎人耕三郎だった。
 
 もっとも、耕三郎自身にはその自覚がないらしく、大連で久坂を紹介する際も「頭の回転が速く、何より気さくでおもしろい男」と久坂を評して陸大時代の話などを楽しげに語っていたが、当の久坂はそうは行かない。耕三郎の話を出そうものなら、普段明るい人物だけに、その身を纏う空気が一変するのが如実に分かる。「なんや、コウとうまくいかなかったんか」と古月は何気無しに久坂に聞いたことがある。いつもはたいてい流されてしまうのだが、一度だけ、ぽつりと久坂がこぼした。


――あの男には、何一つ勝てなかった。


 嫉妬に近いものなのかもしれない。尋常小学校を出ただけの古月は、エリートと呼ばれる人間もいろいろ大変なんやなあ、と思ったに過ぎなかった。

  **

「そろそろ来るはずだ」

 さっきの小男の声がして、楽弥が返事をした。雪が降ってきたらしく、入ってきた海軍士官のコートが白くなっていた。久坂と窪塚が立ち上がる。久坂が敬礼し、窪塚は体を大きく曲げてお辞儀する。
 その白い海軍の正装には、「大佐」を示す、三ツ星の肩章。

「お目にかかれて光栄だよ、北条社長。帝国海軍大佐 藤原一美。今は北京で駐在武官だ」

 古月も立ち上がり、差し出された右手を握り返す。藤原が腰を下ろすと、それに続いて久坂と窪塚も座った。古月もそれに倣った。
 楽弥が藤原に杯を勧めた。では、といって粋に飲み干す。窪塚が「おお、さすがです」と驚嘆する。藤原は満足そうに杯を置いた。

「舎人からよく貴様のことを聞いているよ。『面白い男だ』と。今日は私も北京にいたし、貴様も上海に来ると久坂に聞いて、同席をお願いしたんだ」

 あいつ人を「面白い」以外の評価ができへんのか、と古月は思ったが、藤原のことを悪い男とは思わなかった。
 そもそも、商人である古月と親しくしようとする軍人は2種類だ。裏側で利益供与を要求するか、よっぽどのモノ好きか。

「海軍さんにはご贔屓にさせてもらっとります」

 古月は正座のまま頭を下げた。藤原はからからと笑った。

「ははは。その節は世話になったな」

 そして。そこまで言って、藤原は口を閉じる。久坂が楽弥に目で合図をすると楽弥がぱんぱん、と2回手を叩いた。
 古月と藤原の対面側の襖がからりと空いた。そこには手前に1人、後ろに2人の女が手をたたみについて顔を伏せており、襖が上がるとやがてゆっくりと顔を上げた。座敷の奥には、二胡、筝、揚琴の一団が控えている。
 手前の少女が顔を上げた。唐代の芸妓の衣装に似せたゆったりとした柔らかい臙脂色の衣装を纏い、切れ長の目尻が美しい。年の頃は10歳前後。その額には上3片の花が描かれており、白いおしろいの顔に仄かに香り立つような桃色の唇。ゆったりと上げた頭の上で、結い上げられた黒い髪に映える、細い線のような金櫛の飾りがシャンと鳴った。

「それでは、ささやかではありますが大陸に伝わる楽妓舞踏をお楽しみくださいませ」

 二胡の深遠を思わせる音色が、空気を震わせて楽を奏で始めた。
 3器の合奏が始まるのと同時に、「少女」が伏せていた睫を上げ、光のない漆黒の瞳を見開いた。しなやかに、しかし力強いその肢体の躍動に、一座は目を逸らせない。

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2010/09/23(Thu)

1913年、上海(3)

 耳の奥に響く弦の音。
 その音が弾むたびに「少女」が腕を振り、その身長ほどもある袖がしなやかに舞う。袖の描く曲線はまるで龍の空を舞うようなもので、ふわりと空に浮いていると思えば、琴の弦がはじかれる度にそれは稲妻となり、それは流れる雲となった。

 やがて3つの楽器が激しく鳴り、「少女」もそれに呼応するように両腕を観客へ向けてくるくると回しながら後ずさる。「少女」の目は、相変わらず闇を宿したまま。愛想の一つも無く、その小さな丸い顔の表情を始めの印象のまま、見ているものを射るような眼差しを向けている。それも、観客が目が離せなくなる要素なのか。

 舞台が絶頂を向かえ、「少女」が姿勢をかがめ、観客へ深く一礼をする。音楽が止んだ。さっきまで少女の動きにつき従っていた臙脂色の衣服が、動きを失って床に落ちた。その光景さえ命の呼吸を感じる。

 手を打ち始めたのは久坂。窪塚が続き、藤原が「見事!」と声を上げた。

 楽弥が口元を緩め、座敷に一礼をする。「少女」は踊り子の一人の腕に手を沿え、袂をするすると引きながら、音も無く楽弥の横にやってきた。踊り子は下がり、襖を閉めた。「少女」は座ったまま久坂に深く一礼をする。久坂は満足そうに一つ頷いた。

「息子の、仙 輝煌(チャン フィファン)です」

 楽弥がそう紹介すると、「少女」は座敷に向き直り、やはり一礼をした。

「息子?」

 そう聞きなおしたのは、古月。楽弥はにこやかに微笑んでいる。

「驚いただろう。楽弥の息子だけあって、女に負けぬ美貌と、そして伎楽の才の持ち主だ」

 古月は輝煌を今一度見やる。相変わらずにこりともしない。漆黒の黒い瞳が、自分を見ているのか、それとも他の何を見ているのか、古月には分からなかった。

「煌儿、皆様にお注ぎして」

 うっとりとする様な楽弥の声。藤原が自分の杯を差し出した。輝煌の白い左手が、藤原の二の腕に触れる。そのまま手首のまで降りてきて、杯を持っている藤原の手に触れた。そのまま、輝煌の右手が中空をさまよう。楽弥がその右手に銚子を授けた。そうして輝煌は、ようやく藤原の杯を酒で満たした。

「もしかしてあんた、目が」

 光の無い瞳が、見えていないはずの古月を見据えた。古月はその強い視線にどきりとしたが、輝煌はすぐに目を逸らす。続いて輝煌は楽弥の腕につかまり、こんどは古月の横に座った。そして同じように古月の腕を探る。

「光の無い世界で、彼はどんなものが見えていると思う。まるで現在の中国と同じ。外国に土地を食い荒らされても、何の抵抗も出来ない、救世主も現れない。さあ、社長。われわれには光が必要なのです。中国の二の前になる前に、日本に新たな光を」

「何をせい、いうんや」

 藤原が杯を置き、前を見据えて言った。

「欧州戦線に、日本は参戦する」
「…なんやて? 先日国会で、イギリスからの要請は受けないことが決まったばかりや無いか」
「我々は枢軸国を敵性国家とみなし、ドイツが権益を持つ青島、そして南洋諸島を攻略する」

 古月は次の言葉が接げなかった。なんで日本とは関係ない、欧州の戦いに自ら参加しなければならないのか。なぜわざわざ渦中に栗を拾いに行かなければならないのか。
 古月は窪塚を見た。そんな馬鹿な話があるわけが無い。軍部の独断で、政府の与り知らぬところかもしれない。窪塚に否定してほしかったが、窪塚は相変わらずのいけ好かないすまし顔のまま、「戦時国債の発行手配はすでに完了しております」と古月に告げた。

「お前ら…、ロシアと戦争したとき、国内がどうなったか知っとるんか。男が戦争にひっぱっていかれて、村には男が居らんなった。戦争には金が必要いうて、町中生活用品まで強烈なインフレや。日本人の生活がめちゃくちゃになったんやで!自分ら、日本を守りたい言うたな。日本を守るために日本人殺して、何が光や!!」

 古月は、自分の内臓の一つ一つがいちいち沸点を超えて、その蒸気が神経を通って頭に集まってくるような、そんな気分だった。体中が熱くなる。思わず身を乗り出して、久坂の胸倉を掴もうとした。古月の膳が、がしゃんと音を立てて倒れた。藤原がそれをよける。もう少しで久坂に手が届くところで、古月は動きを止めた。熱を持った古月の右手首を、ひんやりとした輝煌の右手が掴んだまま離さない。

「やめて。もう決まったこと。貴方には貴方の役目がある」

 光の無い漆黒の目。静かに口を開いた輝煌は、そのたった一言で古月の感情を沈める何がしかの波長のある声をしていた。しかし、古月は納得していない。

「煌儿の言うとおりだ。参戦はすでに御前会議でも承認されたこと。北条社長、日本をこれ以上疲弊させたくなければ、政府の軍縮方向に歯止めをかけ、戦争に勝たねばならない。国民には、国家の繁栄のために少しばかり協力してもらうことになるが、我々は必ず、それに応えるつもりだ」

 久坂は礼の真直ぐで純粋な目を、古月に向けていた。隣で藤原が目を閉じて頷き、窪塚は不敵な笑みを浮かべて、こちらを見ていた。


――日本国民全員が、人質っちゅうわけやな。


「軍縮派には、陸軍元帥、白河川修の力が大きく働いている。帝国陸軍の創設に多大な功績を残す功労者だが、どういうわけかこの功労者が、軍内の規模縮小を政府高官筋に突きつけているという話だ。そしてその尖兵となっているのが」

 古月はその人物に見当がついた。

「関東都督府陸軍部大佐、舎人耕三郎。社長、貴方は彼と親しい。貴方には、彼を『なんとかしてほしい』のです」

 輝煌の小さな手は、まだ古月の手首を掴んだままだ。
 その漆黒の目が、無邪気に自分を慕う、耕三郎の2人の子供と重なり、古月は頭を振った。


『 理想 』。


 それはいつの日にか、舎人耕三郎と語った、日本のあるべき姿。
 現実を前に、そのときからずっと大切にしてきた親友との共通の思いを、古月は忘れたものとして過去に葬り去ることにした。


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2010/09/26(Sun)

中国の家族(1)

***

 中国大陸北部、長春から東へ約50キロ。
 松可村に向かう、騎馬の一団がある。

 乾いた土地の土ぼこりが上がり、一団はやがて樹林の生い茂る林の中の小さな小道を一列になって進んでいく。栗毛の2頭の騎馬を先頭に、その後ろに黒い騎馬が一頭。その後ろに三十騎程が続いている。騎乗の男たちは長い外套に帽子、そして背中には小銃を背負っている。林の小道を20分ほど走り抜けて、眼前に塀が聳え立ち、黒い門の前には二人の門番がいる。

「到ーー!!」

 タオと甲高い男の声が響き、2人の門番がつがいをはずすと、中から門が開いた。騎馬の一団は速度を緩めることなく、その門の中に吸い込まれていく。殿(しんがり)が門に入ると、その門は重厚な音を周囲に響かせて、ドスンと閉じられた。
 集落の広場で先頭の二人が降馬し、馬の轡を握って黒毛の騎馬に敬礼をする。黒毛の騎上でたずなが引かれ、甲高い嘶きを一つ空に響かせ、馬はそこに留まった。馬上から男が降りると、控えの男たちが黒毛の馬の手綱を持ち、馬屋へ引いていった。
 先頭二名の敬礼に小さく返礼し、男はそのまま行き過ぎる。梁 続山。この村の当家(タンチャア)――実質上の村の長であり、村の騎馬集団を統率する司令官だ。
 先頭二名、向かって左側、色白の狐目の男が続山の長男、生高(シャンカオ)。当家が行き過ぎると、生高は後方の騎馬集団に向かって「解散(ジィエサン)!」と叫ぶ。この男が当家の指示を全軍に伝達する。生高の声が響くと、騎馬たちは村の中にある自宅へとそれぞれ散っていった。
 向かって右側の長身の男は続山の次男、文秀(ウェンショウ)。軍内でのこの男の役割は、実働部隊の統率だ。そして6人いる参謀格(作戦立案)に関する取りまとめを行っている。一団が解散したのを見届けると、生高と文秀も再び馬にまたがり、帰路についた。

 翔も馬上の人である。
 解散していく騎馬の中から外れ、文秀の乗る馬の後をついていく。
 

 あれから七年。翔は十七になった。


 土で塗り固めた家々の続く中、文秀と翔の帰る家は、それらと何も変わらない、小さな土炉のような家。梁当家や生高の住んでいる家は、村合や作戦会議などが行われることもあって、レンガ造りの、要塞のような作りをしている。当家の息子の家でありながらこの家なのは、文秀の母、秋月が、「妾は妾らしい生活をするべき」と続山に進言したことに由来している。

「大哥(タアゴオ)、二哥(アールゴオ)、おかえりなさいっ!」

 馬の蹄の音が聞こえたらしく、玄関の布を押しやり、小さな女の子が飛び出してくる。
 文秀と翔は馬を降り、下男に手綱を渡すと、荷物を背負って玄関へ向かって歩き出した。

「美花(メイファ)、ただいま」

 先を歩く文秀にぱっと飛びつく美花。二人のやり取りは、単語以外日本語だ。今年6歳になる実の妹を、文秀は軽々と持ち上げる。「そろそろ帰ってくると思っていたの。今日は媽媽(マーマ)と一緒に餃子を作ったのよ」文秀の肩の上で、美花はうれしそうに足をぱたぱたさせている。「もちろん、二哥の分もあるからね!」
 翔は頷いて返事をした。


 ***


 七年前のあの日、村まで連れてこられた翔と義姉の霞は、当家の家ではなく、文秀の家に留め置かれた。
 後ろ手に縛られたまま、翔と義姉は馬の背から降ろされた。闇夜の道だった。土の壁の中には蝋燭が灯り、ほんのりと明るかった。義姉は相変わらずがたがたと震えていて、その身を翔にしっかりとくっつけていた。翔は怖いというよりも、自分はなぜこんなところにいるのだろうとか、先 ほどの兄の死だとか、殺される前に姉だけでも何とかしたいけれど、片言の中国語でどうやってそれを伝えようとか、そんなことを考えていた。

 翔たちが留め置かれたのとは別の部屋で話し声がし、どうやら先ほど自分たちを連れてきた長身の男――文秀は出かけたようだった。代わりに入ってきたのは女だった。自分の母親と同じくらいの年代だろうか。麻布の上着に紺で染め抜いたズボン、先の広い黒い靴を履いていた。女は翔と義姉の前まで来ると、しゃがみこんだ。じっくりと二人の顔を見て、口元を緩めた。

「日本人に会うのは久しぶりだよ。なあに、ここまできたらあいつらは殺しゃしないさ。それなりに働けば、飯も食える」

 きれいな日本語だった。そういうと女は使用人らしい下男に何かを指示して、小刀を持ってこさせた。姉は若干ぎょっとしたような素振りを見せたが、女はまず翔の腕を縛っていた縄を切り、続いて義姉の縄を切った。腕が自由になった。
「型、ついちまったみたいだな」。義姉の細い腕を見てそう言った女は、型のついた手首を親指でこすり始めた。少ししてその手首に血が通ってくると「大丈夫だ」といってその手を離した。義姉は少し落ち着いてきたようだった。翔も冷たくなった両手をこすり合わせた。

「あたしはここでは『秋月』で通っている。チウと呼んでくれ」
「チウさん、なぜ私たちはこんなことになってしまったのでしょうか、貴方も、馬賊に襲われてここへ…?」

 必死に懇願するような目をチウに向けた義姉は、言葉早にそう言った。チウはゆっくりと義姉を諭すように言った。

「少なくとも、あんたたち個人に否は無いよ。あるとしたら、あんたたちの父親が当家の勧告を聞かなかったのか、もしくは、人ン家に土足で上がりこむことを奨励しているあんたの国のせいだ」
「チウさんは、日本人ではないのですか」
「日本人さ。日本に捨てられた、れっきとした日本人」

 下男が盆に皿を二つ持ってきた。野菜くずのようなものが2つ入っていた。

「悪いね。こんな物しかないんだが、だが食べないよりはマシさ。暖まるよ」

 翔は、チウの腹が大きく膨らんでいることに気がついた。
 美花が生まれたのは、それから約4ヶ月後のことだ。



 翔と義姉は、村で暮らし始めた。
 翔は文秀の馬の世話、義姉は身重のチウに変わり、下男とかわるがわる家事などをこなしている様だった。夜は文秀が翔に漢語を教えてくれた。文字を読むことは出来たものの、聞いたり話したりすることが苦手だった翔だが、文秀の手ほどきによって1ヶ月も経つころには村での生活に困らない程度は話すことができるようになっていた。しかし、相変わらず2声と3声が苦手だった。文秀は「そのうち身につくさ。気にするな」と翔を励ました。

 当家には2人の妻がいる。正妻と、チウだ。当家は正妻との間に3男、チウとの間に文秀と美花がいる。チウは上海のお店で働いていたとかで、文秀を身ごもったのを機に当家が村に連れてきたのだという。文秀は中国語と日本語を話し、頭の回転も速く、そしてなによりも優しかった。当家と正妻の長男、生高は優秀で正確な判断が出来る反面、彼を纏う空気は冷たく、なかなか人が寄り付かない。しかし文秀はそんな生高の性格を熟知し、正妻と妾という母の違いによる確執ではなく、純粋に兄を慕う弟のように生高を理解し、そして生高も文秀を頼りにしている。戦場での2人の相性もよく、生高が決断し、文秀がそれに従って兵を率いる。2人の息子は、父、続山をよく支えている。

 翔が村に来てから、1年余りが過ぎようとしていたころだった。
 文秀の愛馬に牧草を食ませ、手綱を引いて帰宅したところ、家の前に人だかりが出来ていたのだった。

「怎么了(ぜまら)?」

 翔が隣に居た壮年の男に尋ねると、男は顎で前を指した。
 そこには、こすり付けるように地面に額をつけている義姉と、必死で許しを請う文秀の姿があった。その前に仁王立ちをしている当家。それを取り巻く村人たち。
 チウは家の玄関の縁に背を預け、腕を組み、複雑な表情をしている。

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2010/09/27(Mon)

中国の家族(2)

「婚姻は来月だというのに、この有様は何だ」

 要は、文秀には当家の決めた許婚がいるのだが、翔の義姉の腹には文秀の子がいるということらしい。
 義姉は相変わらず地に頭をつけたまま、遠巻きの翔の目からもその恐怖心が見て取れる程に、がたがたと震えているようだった。文秀は村人は誰一人として歯向かうことの無い当家に、彼が普段見せることの無い剣幕で食って掛かる。

「それは貴方が決めたことだ。私はそれに承諾したつもりは無い」

「私のやり方に文句をつけるというのか」

 当家の連れて来た部下の後ろに、当家と正妻の三男、大昌(ダアチャン)の顔を見つけた。人々の視線が当家と文秀に集まる中、翔だけは大昌を見つめている。大昌は部下の後ろに隠れるようにしてこっそりと父と腹違いの兄のやりとりを見ており、時折その顔に不気味な笑顔が浮かんでいる。翔は、大昌が当家に告げ口をしたのだろうと思った。この3男は、自分が正妻の息子であることをまるで清朝の玉座にでもいるかのように誇りに思っており、たとえば道でチウや文秀にあったとすると、わざと彼らの前を歩き、「なぜ道を開けないのか。妾腹は礼儀も知らないのか」と罵る。長男生高は冷静な性格で文秀の素質を買っていることもあってそんなことは無いのだが、当家の正妻はチウに冷酷なほど敵愾心を抱いており、3男の大昌はそれを如実に受け継いでいる。

「文秀、お前と隣村の村長の娘との婚姻は、隣村との関係を強め、有事の際の援軍を請うための重要な繫がりとならんがためのもの。ここで子供なぞつくりおって、相手より「形だけの婚姻関係」と見なされれば、今までの交渉のすべてを無駄にすることになるではないか」

「お言葉ですが当家、そもそも正式な血統ですらない私を隣村に婿にだそうなど、相手からすれば「形だけ」も同然。もとより有事の際の援軍など期待できますまい」

「だまれ小僧!貴様が村の有力者の娘と結婚し、村の中枢を担うものとなれば、隣村もお前の意見も聞き入れよう。そんなことも分からぬとは、その女に随分絆されたものだ、あきれた息子よ!」

 当家の張り上げた声に、取り巻く村人たちが息を呑み、しかし半分好奇の目を向けていることが翔には分かった。大昌もその目が「もっとやれ」と言っている。当家の息子で、実力のある文秀といえど、この村から見ればやはりよそ者なのかもしれない。

「何度でも申し上げます。霞の腹にいるのは間違いなく私の子。私には、愛した女と、その子を養う義務がある。たとえ隣村に婿入りすることが村の決まりであろうとも、私は彼女たちを捨てて、この村を出ることは出来ない!」

 しんと静まり返った空気。空は秋空。ひんやりとした空気が時折肌を掠めている。
 当家と文秀の視線が強く交じり合う。義姉は相変わらず地に頭をつけて震えているし、大昌は次はどう出るのかとほくそ笑んでいる。
 チウは腕を組んだまま、その様子をじっと見ていた。

「ならば、その愛する女とやらが、いなくなればいいのだな」

 当家が顎で合図をすると、右手に控えていた部下の一人が青龍刀を抜いた。悲鳴にも似た、群集の声。大昌はその身を隠していた男が前に出たので、近くの村人の後ろに紛れた。翔もはっと息を呑んだ。

「当家、どうかお許しを!」

 尚も食い下がる文秀。しかし当家は揺るがない。

「戦場から連れて来た女だと。よくもそんな女と褥を共にすることが出来たな。もし私がその女なら、殺された家族への復讐心に駆られ、懐に短刀を忍ばせてお前に抱かれているだろう」

 青龍刀が頭を地に着けたままの義姉の頭上にきらめいた。必死でそれを止めに入ろうとする文秀。しかし当家の部下二人がかりで後ろ手を絡めとられ、文秀にはもがく事しかできない。

「当家!」

 文秀の、力なき叫び。
 同時に、翔は無意識に馬の手綱を放し、姉の前に立ち塞がった。
 青龍刀が翔の首筋でぴたりと止まる。当家の部下だから出来る芸当だ。
 ゆっくりと表を上げる義姉の顔は涙と泥にまみれ、力の抜けた文秀はその体重を二人の部下に預け、顔だけを翔に向けている。

「なんだ、お前は」
「1年前、文秀に義姉とともに助けられたものです。義姉は私の唯一の肉親、そして文秀は私の命の恩人です。どうか、助けていただけませんか」

 翔は日本語で当家に相対した。日本語のほうが、自分の気持ちを伝えられると思ったからだ。
 部下が当家に耳打ちをする。取り囲む村人たちは、どうなるものかとはらはらと見ているようだ。大昌が舌打ちをしているのが見えた。どこまでも救えない男だ。

「あのときの生き残りか。ならば聞こう。お前は、私やこの男が憎くは無いのか。お前の家族を惨殺した、この村の人間を殺したいとは思わないのか」
「あのときに死んでいたかもしれない私を、文秀は救ってくれた。そしてこの村で住むところを、仕事を与えてくれました。私はその恩に報いなければならない」
「その為ならば、お前は死んでもいいと申すのか」
「対」

 トエ、と澱みなく応えた翔を、当家は射抜くような視線で見つめていた。翔は怖いとは感じていなかった。どうせ1年前に無くしていたかも知れない命だ。少なくとも命を賭けて自分と義姉を守ろうとしてくれた兄に、あの世で顔向けが出来るだろう。文秀にも恩を返せる。
 ねえ、霞さん。どうしてこんなことになったんだろう。
 霞さんはここに来たばかりのころ、よく言っていたよね。「悔しい。昴さんの敵をとりたい。彼を殺した文秀が憎い」って。

「一つ、提案だ」

 玄関の縁に背を預けたまま、チウが声を上げた。

「霞は、この村から追放する。文秀には、もう二度と霞に会わないようにきつくあたしから言っておくよ。そんで、その子はあたしが立派な戦士に育てる。どうだい、当家」
「この女と子供を生かしておけば、必ずわが村の害となる。いい機会だ。殺したほうがいい」
「この2人を殺して、あんた文秀を敵に回すつもりかい?この村の装備から戦闘形態までを知り尽くしている文秀相手に、今の軍で勝てると思っているのかい」

 群集がざわめき出す。皆、ここで血が見たかったのか、それとも恵まれない境遇の翔に同情しているのか。チウは翔のところまでやってきて、ぽん、と頭に手を置いた。

「男の子がほしいって、あんた言ったね。悪かったね。美花は女の子だから軍人にはなれない。だけどこの子なら立派な戦士になるよ。大丈夫さ、あたしが責任を持つ」

 ウォ、ヨウ、ズゥラン。翔は秋月の顔を見た。その瞳には、翔を立派に育て上げるという自信と、当家への絶対なる信頼が見て取れた。当家もじっとチウを見ていたが、部下に顎で合図をすると、青龍刀を下ろし、代わりに地面に座っている翔の義姉の腕を掴み、強引に引き上げた。そして村の外れのほうへ、ずるずると引きずっていく。

「いや、翔、翔!!」

 義姉は必死で翔の名前を呼んでいた。当家の部下二人に体重を預けたまま、うな垂れ、涙を噛み殺している文秀。村人は義姉が男二人に引きずられていく様をどう見ていたのだろうか。文秀と義姉の純粋な愛情が引き裂かれた瞬間か。文秀をだました日本女の悲しい末路か。それとも…。

 遠く、義姉が見えなくなっても、その声は弟の名前を呼んでいた。
 その声が聞こえなくなるまで、終ぞ、文秀の名前を呼ぶ声が聞こえることはなかった。

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2010/09/28(Tue)

中国の家族(3)

 ***


 義姉の一件で当家より1ヶ月の謹慎を申し渡された文秀は、自宅で書を読むなどの生活をして過ごした。やがて謹慎が解かれると、依然と何も変わらない様子で、当家の補佐などをしていた。内心、気にしているのかもしれないと翔も文秀の気持ちに寄り添おうとするのだけど、下手に引っかいて返って文秀を困らせるわけにもいかない。翔は、文秀が義姉のことで相談するなら自分しかいないと思っていたので、彼のほうから何か言ってきたときには親身になって応えてあげようと心に決めたのであった。

 それから少しして、翔は当家から「梁 文山(リャン ウェンシャン)」という名前を貰った。
 文秀の「文」に、当家「続山」の「山」。翔は正式に梁家の一員として、そして文秀の弟として当家に認められた。

 それと同時に、翔は村の騎馬隊の訓練にも参加することになった。毎朝、日が昇りきる前に起床し、村から約10キロ離れた丘の上に集合する。そこで体操をして組み手や打撃術、防御術を習い、昼に帰宅。今度は自分の馬を連れて週に3回程度遠乗りをする。そこでは長時間馬に乗っている体力をつけるとともに、生高が教師となって、騎乗したままでの武具の扱いなどを教練する。参加者は常時30人程度。これが村の精鋭部隊を構成する。大規模な戦闘が予測される場合は、予備役の村の壮年の男たち100名ほどを加えて、130人程度の騎馬隊を形成している。


 ***


「二哥、どうしたの、食べないの?」

 翔の皿の手のつけられていない餃子を見た美花が、身を乗り出している。
 翔は首を振って、一口、口に入れた。やはり味がしない。

「二哥が食べないなら、あたしが貰っちゃうね!」

 言うや否や、翔の皿の餃子に箸を突き刺す美花。チウが「やめな、みっともない」と一応口にはするが、とくに止めはしない。文秀が隣で穏やかに口元を緩めた。美花は意に介した様子もなく、翔の餃子を口に入れた。

「うん、おいしい!」

 そういって、零れん様な笑顔を見せる。
 

 ***

 翔が13歳の時に、初めて村の遠征に参加した。
 北京郊外の日本軍駐留地への襲撃だった。近隣の武装軍を統率するのは、梁続山当家。騎馬数およそ700。各騎馬が腰に佩剣して長銃を装備し、黒い、長い外套に帽子。この帽子は中に柔らかい針金のようなもので編んだ、頭部を防御するための工夫がなされている。

 奇襲開始は午後8時。当家の横に控えている生高が、双眼鏡で日本軍の宿営地の様子を伺っていた。今回の目的は、攪乱。日本軍を掃討することが目的ではない。要はこちら側に抵抗の意思があることを示し、この場から退散してもらおうというものだった。

 翔以外にも、年若い少年に顔がいくつも見受けられる。それは翔が知る限り、日本では見たことのないほどに大人びた目つきをしていて、戦場にくることの覚悟や、殺し、殺されることを理解している、そんな顔だった。自分の村の仲間ではなかったから名前も知らない少年だが、翔は、流されるままに生きてきた自分が、こんなところにいてもいいものなのだろうかと思った。

 生高の頭が動く。その横にいる文秀が指揮刀を上から下に振り下ろした。攻撃開始の合図だ。そこに居た300騎程の騎馬が、文秀に続いて動き出す。残りの300騎程は、二手に分けて、後方から襲撃する手はずになっている。

 翔も、その流れの中にいた。もとより長銃の銃弾は装填されているので、この下り坂を駆け下りて騎馬が安定したら散会して散弾する。先発隊ではすでに発砲が始まっているようだった。おそらく日本兵のものだろう、逃げ惑う声や、指揮官らしい怒号の声も聞こえてくる。翔の馬が平地へたどり着いた。視界が定まらない中、翔は、夜闇にむかって発砲する。

「ぎゃっ」

 翔の発砲と同時に聞こえた、男の断末魔だった。翔は前を走る騎馬を見失わないことに神経を使った。再装填し、反対側に一発。再装填、もう一発。繰り返すたびに聞こえていたものが、数をこなしていくうちにどんどん聞こえなくなってくる。そのうちに、何も考えずに銃を撃てるようになった。長銃にこめた銃弾が切れると、入れなおす時間が出来るまで翔は腰の剣を抜いた。

 どん、と耳を壊すような轟音が轟き、翔の前を走っていた一団が視界から消えた。次の瞬間に視界が煙にまかれ、前後不覚となった。翔は手綱を思いっきり引いて馬を落ち着かせた後、とりあえず今走ってきた方向に引き返した。煙が引いたと思ったら、再び轟音が鳴る。馬がその音に驚き、嘶いている。まずい。これでは文秀の指示も聞こえない。煙の中なら直接銃で狙われることもないので、月明かりを頼りに長銃に銃弾を入れなおし、右手で手綱を引いて、文秀の姿を探した。

 日本軍は完全にだまし討ちをされた形になっていて、800人程の兵に兵馬は50頭足らず、その馬にたどり着く前に翔たちに攻撃されたので、ほとんどが歩兵のまま、日本刀を抜いたり、慣れない銃の扱いに苦戦しているようだった。指揮系統はほとんど機能しておらず、極所局所で戦闘が繰り返されている。戦闘といっても、翔たちの軍は威嚇のようにその近くを通り過ぎながら発砲しているだけなのだが、暗闇を背後から奇襲された日本兵たちは、自分たちを殲滅に来たのだと必死にこちらに応戦している。銃火器などの装備は、対地上大砲なども完備している日本軍の方が圧倒的に有利だが、今回は当家率いる騎馬軍の作戦が圧倒していた。1時間ほども馬を走らせただろうか。攻撃用の長銃ではなく、撤退を知らせる文秀の短銃の甲高い銃声が3発鳴り、翔は馬の轡を返した。

 日本軍に、追い討ちをかける余裕などなかった。
 引き返す途上、敵味方入り乱れた死体の中に、さっきの少年が腹から血を流して絶命しているのを見た。
 彼はそれすらも受け入れているのだろうか。何度も死に目に会い、もはや生きることにすら実感の沸かない自分が生き残るなんて、神様がいるとしたら随分不公平な奴なんだなと翔は思った。



 ***



「それでねー、美花は爸爸(パーパ)に言ったんだよ。『そんなに怖い顔しちゃだめ』って。あのね、人の上に立つ者は、人から好かれなくちゃいけないんだって。孔子様もそう言ってるんだよ」

 美花は翔の上に肩車されており、『美花が』といってはにっこり笑い、『爸爸(パーパ)が』と言っては怖い顔をしている。爸爸(パーパ)とは言うまでもなく美花の父の当家のことであるが、文秀の一件は例外としても、当家にここまでものをいえるのは、美花をおいて他にはいるまい。
 隣には当家への提出書類とチウからの届け物をもった文秀がいる。昼下がり、翔と美花、そして文秀は、当家の家までの道を徒歩にて参る途上である。

「美花。いつの間に『春秋』を読んだんだい」
「あのね、老師から教えてもらったんだよ」

 老師様はね、何でも知っているけど、すぐ怒るのよ。だからみんなから「老鬼子(らおくいず)」って呼ばれているの。今日も老鬼子は怒っていたのよ。「袁世凱は自分の利益を追求している場合ではない。孫文と手を組み、大陸を統一して、今こそ日本と戦うべきだ」。

「美花ね、よくわかんなかった。どうして日本と戦うのかな。あのね、それは知ってるんだよ。日本は朝鮮みたいに、中国を乗っ取ろうとしているんでしょ。だから軍隊を中国にいっぱい送ってきて、それで爸爸(パーパ)や哥哥たちが一生懸命追い払おうとしているんだよね。でも変だよねえ。美花も妈妈(マーマ)も大哥も二哥も、日本語が話せるのにね。きっと話せば分かってくれるはずよ」

 どうやら美花は、戦争の原因がお互いの言葉が通じないことにあると思っているらしい。文秀が穏やかに微笑み、翔は神妙な心持で美花の話を聞いていた。怖いものなしの美花は、「でも大丈夫よ!爸爸(パーパ)が美花たちを守ってくれるんだから!」と声を上げていて、それは秋の深い空へ吸い込まれていった。言葉が通じれば、日本と戦わなくて済む。赤とんぼが歩みを進める3人の前を行ったりきたりしている。だったら、はじめから自分は戦場に立つことなんてなかったのかもしれない。あれから何度も当家の率いる騎馬隊に参加し、何度も人の生き死にを目撃した。その家族の悲しみにも立ち会った。そうして死線を潜り抜けることで、翔はこの村で一人の戦士をして認められたのかもしれない。誰かの死と引き換えに、生き残った自分はこの村で生かされている。

 兄さん。
 父さん、母さん。

 あの、見知った人たちの流した血の海に居た自分が、こうして天高い空の下、少なくとも今は、命の危険にさらされることもなく歩いている。そう思ったらなんだか足元がふわふわしてきたような気がして、ちょっと躓いた。思いがけなく、がっくんと首を大きく前に振った美花が驚いて、「どうしたの、二哥」と翔の短い髪を鷲掴みにする。その痛みが、ますます翔を、思考と認識のズレに追い込む。

「美花、痛い…」
「あ、ごめん」

 反射的にそう応えた美花の言葉に、謝意をまったく感じない。そのやり取りを見ていた文秀がくすくすと笑っている。

 結局、文秀が隣村に婿入りする話は、義姉との一件の後に破談し、代わりに当家と正妻の次男が、あれから2年後に違う村に婿入りした。実際、有事の際は当家の呼びかけに次男の婿入りした村が応じるようになったので、関係作りには成功したということになろう。しかし、あれから6年、当家は徐々に力をつけ、今では東北部の部族、匪賊、馬賊を率いる、一大勢力となっている。結局のところ、文秀や次男のつながりがなくても、彼自身の名声が周囲をひきつけていった。
 美花を降ろすと、ぱっとわき道に姿を消し、戻ってきた彼女の手には薄紫と濃い紫の秋桜。「どうぞ!」と他意なく翔にそれを手渡す美花。翔はそれを受け取った。「これは、大哥のぶんね」といって、文秀のズボンのポケットに秋桜を指している。「ありがとう」と笑ってみせる文秀だが、翔も文秀も、このまま当家に見えるのか。

「爸爸、来了!(ぱーぱ、来たわよ!)」

 ぱたぱたと軋む床を渡り、髭面の当家に飛びつく美花。当家は「呀美花,很好地来了。(やあ美花、よくきた)」といって頬ずりをしたあと、彼女を抱き上げて右手に乗せた。娘には甘い父親だ。文秀と翔が秋桜にまみれている事に少し目を見張ったが、「まあ座れ」と応接用のソファーを勧めた。
 当家の秘書代わりの若い女が、2人にコーヒーを運んでくる。当家が上海のイギリス商人から直接買い付けている特注品だ。翔はコーヒーが苦手なのだが、とりあえず口をつける。若い女は一礼してその場を去る。化粧気も愛想もない女だが、愁眉とはこのことを言うのだろうか。当家の好みそうな女だと翔は思った。
 文秀の携えていた書類と、チウからの届け物を預かると、当家はチウの届け物をみて大きく一つため息をつく。美花が「我看!(みせて)」、とせがむが、抱き上げてそれを制し、手紙をくしゃ、と封筒へ戻した。

「担忧事项也什么?(何か、懸念事項でも)」

 文秀が当家のその様子に気がつき、当家に問う。

「哦,必须比那个都到上海前往了。而且让你们同行。(いや、それよりも上海まで出向かねばならなくなった。それにはお前たちを同行させる)」

 1913年、晩秋。
 翔は、当家と文秀ら村の6名と共に、上海に向かうことになった。



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2010/10/01(Fri)

傾城傾国(1)

 ***

 上海、湖南楼。朝方4時前後。
 浅い眠りの中、輝也は襖に人の気配を感じて目を覚ました。
 昨夜の客が帰り、いつものようにこの男と褥を共にしたことで、輝也はすでに「輝煌」を脱ぎ捨てている。素肌を伝わって、男の深い寝息が聞こえていた。輝也はその男が目を覚まさぬように静かに布団から抜け出して、手探りで自分の上着を探した。右手を大きく動かして、さらにその奥のほうに肌着を見つけた。この男の仕業だ。こういう地味な自分への仕打ちをして、輝也が困るのを見て面白いという男なのだ。長い黒髪を衣服の外に出すこと無くそのまま地肌の上に肌着を羽織り、身に着けた距離感と感覚で襖へ向かう。

 とん、と輝也が襖に触れると、襖はすっと開く。この気配は、「湖南楼」唯一の日本人の使用人、田口か。

「どうした」
「楽弥が姿を消しました」

 田口は床に膝を着き、輝也に頭を下げた状態で話をする。田口だけではない。この「湖南楼」の従業員は皆、楽弥と輝也にはこうして話をするのだ。

「目を離すなと言ったはずだ」
「申し訳ありません」

 輝也は小さくため息をついた。田口は、すでに探索の手配をしたと輝也に告げた。

 楽弥には2つの人格がある。輝也はそう思っている。
 一人目は、自分を生んでくれた、吉岡らく。温和で純情な少女のような感性を持った、繊細で儚い母。
 二人目は、「湖南楼」の女主人、仙 楽弥。客の前では見目麗しく利発な女将を演じているが、内心を黒澤修吾、そしてかの祖国、日本を心のそこから憎悪する女。彼らを壊すためなら、息子すらも利用する、狡猾な女。
 楽弥は以前にも何度か、こうして誰にも何も告げずにふらりと姿を消すことがあった。それは日本人の軍人を相手にした後だったり、満月だったり、とにかく何の脈絡も無く失踪するのだ。湖南楼の従業員で1日中上海を探して、ようやく路地で小さくなって震えている楽弥を見つけることが何度も続いた。田口はそれを想定して、上海市内に人手を手配したのだろう。

「いや、おそらく北京だ」
「北京ですか」

 輝也は長い着物をずるりと引きずり、柱に体を預ける。バランスをとるために出した右足が、着物の前から白く覗く。

「あくまで可能性だ。北京につながる街道、駅に人をやれ。まだ近くにいるかもしれない」

 田口は輝也に頭を下げ、静かにその場を去る。
 それとほぼ同時に、輝也に覆いかぶさる影があった。肌着一枚の輝也の背中から肩を抱いて、耳元に吐息を吹きかけてくる。起こしてしまったか。

「久坂」
「また居なくなったか。随分ご執心だな」

 そう言いながら、久坂は輝也の緩い着物の胸元から手を忍ばせてくる。何も身を纏っていない久坂の腕から、密着した背中から、彼の体温が強引に伝わってくる。輝也はそれを掴み、わざと久坂の耳元に呟く。

「お前が、昨夜、舎人耕三郎の名前を出したからだ」
「ああ、その響きを聞くだけで、憤死してしまいそうだ……」

 強引に輝也を暗闇に押し倒す久坂。開いている襖からほの暗い明かりが漏れる以外は、漆黒の闇。畳を背に、輝也は身につけていた肌着を剥がされ、上半身に浴びるような口付けの洗礼を受ける。その白い肌に、いくつもの赤い「傷跡」が残っている。

「舎人耕三郎は北京にいると言ったな。ならば楽弥は北京に向かうはずだ」
「さすが楽弥の息子だ。ちょっと国の未来を話しただけで此方の思惑に乗ってくれた北条古月とは違う」
「またあの話をしたのか」

 熱を持ち始めた輝也の体を愛撫する久坂の手が、ぴたりと止まる。久坂は輝也の顔をじっと見つめる。

「なんだ、興味があるのか」

 自分が困るのを見て喜ぶ癖のあるこの男の趣向に付き合うつもりは毛頭無かった。

「日本の未来になんて、興味は無い」

 満足そうに輝也に見入る久坂。腕も下半身もこの男に完全に拘束されている。輝也はそう言って、唯一自由の利く顔を背ける。輝也は、奮い立つような久坂の気配を感じていて、ぞっとしなかった。「そう、それでいいんだよ輝也」そう呟きながら久坂は自らの下半身を輝也のそれへ触れさせる。

「愛しい輝也。お前の願いを叶えるためなら、芝居の一つだって打ってやろう。国の一つだって壊してやろう。なあ、お前は何がほしい。俺はお前の望むものをすべて与えよう。さあ、さあ!」

 次第に久坂の息が上がり、腰の動きが俊敏になってくる。何度かそうされているうちに下半身に鈍い痛みを感じて、輝也はその女子のような美しい顔を顰めた。それをみて意気を上げる久坂が、何度も輝也の顔に口付けてくる。だんだん麻痺してくる下半身に反してこういうときの輝也の思考は冴え渡っている。5歳のときに初めて男に抱かれて以来、これは全うな自分の仕事で、生きるために必要な義務なのだと思っている。

 行為が終わると、畳に輝也を組み伏せたまま久坂を上半身を起こし、輝也を見下げる。その荒い息が聞こえた。輝也は動かない。痺れの残る体をぶらさげて、頭の中では今日、自分がすべきことを組み立てている。楽弥のいない湖南楼を取り仕切るのは、輝也の役目だ。湯を浴びて、朝食を手配したら今夜の準備に取り掛からねばならない。今夜は特別な会合の場として、湖南楼の一室を提供する。もしかしたら中国の今後を担う、一大勢力になるかもしれない男たちの集まりだ。抜かりがあってはならない。気合を入れて取り仕切らねばならない。おそらく楽弥は今夜には間に合わないだろう。まあいい。彼らに顔を売っておくのも今後何かの役に立つかもしれない。

「今夜の会合には、梁 続山が来るんだってな」

 先ほどまでとは違う、醒めた声が久坂から輝也に向けられる。腐っても日本の将校か、と輝也は自分の心の中に吐き捨て、静かに口を開いた。

「生憎、日本人の席は用意していないんでな」
「その必要は無い。無いのであれば、作るまで」

 輝也は久坂を押しのけて上半身を起こし、その光の無い目で久坂を見据えた。

「あまり中国人を見くびるなよ。貴様ら日本人などにこの国は渡さない」

 真正面からその言葉を浴びた久坂は、ゆっくりと口元を緩めて笑い、「ああ、いいね、お前はやはり最高だよ」と言った。


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2010/10/04(Mon)

傾城傾国(2)

 ***


 梁 続山が湖南楼に現れたのは、上海の夜にネオンが煌めく夜8時過ぎだった。

 膳を設えた一室には、6名分の席が用意してある。大陸中央部、山東省、安徽省、福建省などを統括する段麗華、山西省の園碌、河北省の馬玉林、甘粛省の馬竜漢、湖北省の劉錫候、そして河北省の梁続山。

 北京と上海をぐるりと囲むように、その地方の実力者がこの場に集結している。

 2年前の1911年に宣統帝が退位し、清朝が滅亡。孫文を臨時大統領とする中華民国政府が成立した。北洋新軍の総帥で清国の内閣総理大臣であった袁世凱を後任に指名して孫文は表舞台から退くが、袁は議院内閣制を想起した孫の政府をそのまま譲り受けるつもりは毛頭なく、孫文を追放して中央集権的政治機構の創設に着手した。1913年10月、袁が手配した圧力団体が議会を包囲する中、議会は袁を正式に大統領として選出した。これが、先月の話。袁はより強固にその権力を手中に収めるべくして、清朝弱体とともに勢力を伸ばした地方の軍閥の征圧に着手したのだ。

 北洋軍閥とは、袁が近代化を進めた、清朝の軍を指す。にもかかわらず袁は北洋軍を率いて革命軍に合流、辛亥革命を達成し、ついにその権力を手中にした。地方軍閥の中にも、革命軍を流れを汲み、袁の傘下に居る軍閥も存在している。今日の席上にいる、園碌、梁続山以外の4名は革命軍の一派だ。主流となりつつある袁世凱の参加からこうして反政府勢力への会合の席へ合席者が出ているという事実が、この会合の重要性を内包する。


 ***


 翔は、会合の部屋の、隣の、入り口の通路側に居た。
 
 文秀と翔は、当家続山を警護という名目で上海まで同行した。この湖南楼には、それぞれの腹心たちが出口という出口を固めている。文秀は通路入り口付近。部下たちは雑多と行き来する楼閣の客に紛れてそこに立っているが、彼らを纏う空気は、客のそれとは異質を放っている。

 室内とはいえ、外は雪。暖房も届かない通路だ。翔は誰も見ていないことを確認して、壁にもたれたまま座り込み、自らの息で両手を暖めた。一つ大きく息を吐くと、白い息が見える。ずいぶん高い天井だな。赤い壁、赤い通路。湖南楼に来るのは初めてだ。ここが、チウの働いていた店か。随分大きな店だな。

 チウが日本人だったこともあり、日本の軍人や外交官、商人なんかもよく使うのだと聞いたことがある。そういえばそれらしい顔も何人か見かけた。日本に居たころは分からなかったが、こちらでの暮らしが長くなるに従って、日本人、朝鮮人、中国人の区別がつくようになってきた。自分もそういう風に見られているのかもしれない。ここ中国に、「ほら見ろ、日本人だぞ」と。

 ガラリと外扉が開いて、翔はびくりと体を震わせる。急いで立とうとするが、そこにいた「少女」の存在感に圧倒された。
 翔を見下ろす「少女」。紅色の唐紅に高く結い上げた髪。引きずるような長さの袖。翡翠の簪、その簪にシャランと揺れる金色の飾り。

 「少女」は目が見えないのだろうか。杖を頼りに、ここまで来たようだ。
 その赤い唇が、震える。

「是什么你呢。为何日本人在这里(なんだお前は。なぜ日本人がここにいる)」

 その可憐な外見から思わぬ言葉が出たことに、翔は狼狽する。そのまま動けず、輝煌から目を離せずにいる。

「对问题回答,你是什么人(質問に答えろ、貴様は何者だ)」

 言うなり「少女」は杖を投げつけ、その音が聞こえたほうに向かい、輝煌は翔の胸倉に掴みかかかる。翔はほとんど抵抗もないままそのまま壁に押し付けられた。輝煌の翔を掴む腕に力が入る。ぎりぎりと締め上げられて、翔は息が苦しい。
 おかしい。なんだこの違和感は。翔はゆっくりと攻勢に入る。押しやられている顔を何とか戻して、輝煌の腕を掴み返す。視界に入る美しい顔は、その怒りに染まる眉すらこの世のものとは思えぬ愛らしさだった。

「那样的你,不是也是不是日本人(そういうお前も、日本人じゃないのか)」

 締め上げられている苦しい状態で、翔はようやくそれだけ返した。途端に輝煌の目の色が変わる。翔はその瞬間を見逃さない。体格では勝る翔が、輝煌を床に押し倒す。翔が圧倒的に優勢になっても、輝煌は尚も抵抗しようとする。

「我别与是中国人,你们要一起(俺は中国人だ、貴様らと一緒にするな)」
「别撒谎,那个脸是日本人(嘘をつくな、その顔は日本人だ)」
「吵闹!你现在马上在这个场走开!日本人可以遇见在的聚会的场没有这里!(五月蝿い!貴様は今すぐこの場を立ち去れ!ここは日本人の立ち会ってもいい会合の場では無い!)」

 騒ぎを聞きつけた湖南楼の下男たちが「あいやー」と叫びながら通路に集まってくる。あれよという間に翔は男たちに羽交い絞めにされた。輝煌はごほごほと咳き込んだ後、下男が大丈夫かと差し出された手を払った。美しい眉を逆立て、翔に敵意むき出しのままの目を向けている。

「是什么吵闹(何の騒ぎだ)」

 声をかけたのは文秀、その後ろにも、どやどやと物見湯山の見物客たちが押し寄せているようだった。

「文秀!」

 ぱっ、と向き直り、文秀に手を伸ばす輝煌。彼の目が見えないことを知っている文秀は、その手を取った。腕を伝い、文秀に縋る輝煌。さっきまでの様子とは違う、それこそ「少女」のようだと翔は思った。

「翔、どうした、何があった」

 文秀の顔を見上げる輝煌。文秀は事態を大体飲み込んだらしく、輝煌の頭をなでると、宥めるように言った。

「あれは俺たちの連れだ。離してやってくれないか」
「だめだ文秀、日本人はここには入れられない。大切な会合なんだ、分かっているだろう?」
「分かっている。だが翔は当家が自ら指名して、ここに連れてきた。分かるな。輝也、日本をそう嫌ってはいけない。今は少しすれ違いが続いているだけで、あの国はアジアでもいち早く近代化を進めた国だ。見習うべきところはたくさんあるんだ」
「文秀がなんと言おうと、嫌」
「俺も日本人の血を受け継いでいる。そしてお前もそうだ。日本で生まれ、訳あって今、中国で暮らしている。翔も一緒だ」
「違う!俺は中国人だ!」
「輝也!」
 
 文秀が声を荒げる。翔は、文秀が美花にですらこんなに感情をぶつけるところを見たことが無い。輝煌は納得できないという表情のまま、輝也は翔の後ろ手をからめとっている男たちに目配せをする。翔はその不自由から開放された。同時に、奥の座敷から接待を任されていた女たちが出てきて、輝煌の出番を告げた。輝也は女たちに腕を引かれ、先導されて奥の部屋へと消えて行った。 

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2010/10/06(Wed)

傾城傾国(3)

 ***



 張作霖はこの場に居ない。
 
 彼は袁世凱とのつながりが強い。北京を中心に黒龍江、吉林、奉天を掌握するこの背丈の低い小男は、袁世凱の下で腹心としてその辣腕を振るっている。同じく北京周辺を勢力範囲とする梁 続山は、清朝から正式に統治を任されている張と一線を画し、その圧制から近隣の村々を防衛してきた。張にとって、梁 続山率いる近隣集落の自衛騎馬軍は、目の上の瘤のような存在となっている。

 袁世凱の後ろ盾である北洋新軍は、内部分裂が始まっている。

 段 麗華がそう述べたことで、地方では人々の噂となっていた話が事実であることが裏付けられた。

 後継者をめぐる争いである。各地方に散らばっている袁の息の掛かった者たちの仲でも、呉文京、張作霖、そしてこの席上に臨場している段麗華、馬玉林もそれぞれ名を上げている。張は袁世凱に非常に目を掛けられており、後継者としては最有力とされている。馬はその人望から名を謳われているのであり、本人はこの場で段麗華の貢献となる旨を宣言した。また、今後も袁の不条理な要求を決して受け入れず、局地レベルで抵抗する意思を兵で持って示すことも確認された。

 あくまで現地対応であり、相互に手を組むという具体的な話に言及したわけではない。それはおのおのの胸中に、北洋進軍後の大陸の覇者は自分であるという思いの表れなのか、否か。


 ***


 日付が変わるころ、奥の間の雰囲気が和らいだ。翔はそれまで張り詰めていた気を少しだけ抜いて、ため息をついた。

 女たちが酒を持ってきたり入ってきたりしている。「彼女」は、まだ出てきていないところを見ると、まだ座敷に居るのかもしれない。それにしても、あの座敷を「彼女」が一人で切り盛りしているのだろうか。まだ年端も行かないように見えたが。ここ「湖南楼」は、チウの後を若い女が引き継いだと聞いているが、それにしても「彼女」は幼すぎるのではないのか。

「翔」

 文秀が水筒を手にやってきて、翔の隣に腰を下ろした。奥を見れば、ほかの部下たちの顔からも緊張の弛緩した顔が見受けられる。まだ外敵の侵入がないとは限らないから、ちょっとだけ回りにも気を配りつつ、翔も腰を下ろした。文秀が水筒を差し出した。そういえば4時間も立ちっ放しで、のどが渇いていることに今気がついた。普段の訓練よりもただ立っている事の方が水分体力を消耗した。

「当家がお前の分もここに宿を用意してくれている。もうじき終わるだろうから、ゆっくり休むといい。俺は先に北京に戻る」

 意外だった。どうやら翔は、当家の身柄を一人で預かることになるらしい。ずいぶん信用されたものだ。

「初めての警護だろう。よくやったな」

 文秀はそういって笑った。この男は人を惜しげも無く誉めることが出来る。翔がごくっと水を飲んだ。

「文秀、あの子がここの主人なのか」
「あの子、ああ、輝煌のことか」
「輝煌?『コウヤ』ではないのか」

 『輝煌』はここでの通り名なんだ、と文秀は言った。

「ここの主人はね、病気がちで、よく人前に出ることが出来なくなるから、彼がこうして場を取り仕切るようになったんだ」
「どうしてあんなに日本を嫌うんだ、あれも日本の血が入っているのだろう」

 翔は何気なく聞いたつもりだったのだが、文秀は少し沈黙した。言葉を捜しているようだった。

「お前は、日本を憎いと思ったことは無いのか」

 沈黙の後に文秀から聞かされた言葉が意外なもので、翔は驚いた。それは、文秀にもそのような思いがあったということなのか。

「考えたことも無い」
「じゃあ中国は?」
「ここまで育ててもらったと思っている」

 今度は文秀が驚いたという風に目を見開く。

「お前はすごいな。まったく自分がブレない」

 そう言って文秀は大きく息を吸って、吐いた。遠くを見るように、その視線は柔らかい文秀の臭気を纏ったまま中空をさまよい、定まることが無い。

「俺はあるよ。輝也と同じように、日本を憎んだ時期もあった。俺の中に流れる日本人の血を恨んだこともある。だからあれの気持ちは理解しているつもりだ。まだ時間が足りないんだ」
「どう理解するんだ」
「どう、って…」

 そのとき、淡い白檀の香りがした。

「日本は俺たちを捨てた。人民を救わない国など、こちらから願い下げだというのだ」

 相変わらず翔を見下げる輝也の姿があった。その姿はやはり、黄金を頂く皇帝の龍のように気高く、そして睡蓮の花弁のように美しい。 


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2010/10/08(Fri)

傾城傾国(4)

 ***


 文秀と翔は、座敷に通された。
 6畳ほどの、本当に何も無い部屋だった。

「他の部屋は使っているんだ。悪いな」

 輝也は人払いをし、文秀にそう言った。自分も流れについてきてしまったのだが、よかったのだろうかと翔はちょっと思った。

「会いたかった、文秀」

 そう言うなり、輝也は文秀の胸に身を預ける。翔は相変わらずぎょっとしたが、文秀が特に気にしている様子も無いので、「これ以上の進展は無い」のだろうと思った。場合によっては、自ら退席するところだ。

「改めて紹介するよ。弟の梁 文山(リャン ウェンシャン)だ」

 思わぬうちに自分に話題が振られ、翔は思わず背が伸びた。輝也はこちらにちらりと視線をよこしたが、それきりだった。

「それで、こちらはここの主の息子さんで、仙 輝煌(チャン フイファン)」
「息子?」

 翔は驚いて、文秀に縋る輝也に視線をやる。輝也はそっぽを向いたきりこちらを省みることも無かったが、そういわれれば、肩の線や腰の辺りが女性のものとは違う。しかしそれは本当によく気にしなければ気がつかない程度のものだ。

「文秀、久しぶりに会えたんだ。今日はゆっくりしていけるんだろう?」
「会合が終わり次第、先にここを発つことになっている。また今度な」
「行き先は北京か?女が出来たという話は本当か?」

 翔はおや、と思った。そういえば文秀は北京に用事があるのだといっていた。義姉の一件以来、浮いた話も無かったが、文秀もなかなか隅に置けないじゃないか。よかったな。翔は素直にそう思った。
 だが、輝也はそうは行かないらしい。その美しい眉にしわを寄せ、文秀の肩をゆすりながら詰問する。

「随分耳が早いな。その噂は生高あたりからのものか?」
「俺に知らないことなど無いぞ。民国政府の人事、日本軍の動向、なんなら、先日退位した宣統帝の今日の夜食の献立を教えてやってもいい」
「皇帝がお元気で何よりだ」
「話を逸らすな、北京の女がそんなにいいのか?俺ではだめか?」

 これは客引きなのだろうか、と思いながら翔は二人のやり取りを見ていたのだが、よくよく考えると、さっきの自分への態度からして、この「男」が誰かに媚び諂って客をつなぎとめているとは思えない。ましてや、当家ならまだしもその息子である文秀だ。まだ宴席にある馬賊の首脳連中を別の女に任せたままで、こちらにくる理由など思いつかない。
 おそらく、本気なのだ。そう、翔は思った。

「ああ、そうだ。彼女がいいんだ」

 そういった瞬間に、輝也が当惑とも悲しみともいえない表情で文秀を見上げた。熱を持った瞼が赤く腫れ、言葉をつなげない小さな赤い唇が震える。どんどん、と文秀の胸をこぶしで叩き、「笨蛋(馬鹿)」と一つ呟いた。輝也が動くのと同時に、髪飾りがしゃんしゃんと鳴った。一通り文秀を責めた後、輝也は文秀から離れた。激しく動いたせいで、輝也の着物の前がはだけ、肩の細い線が見えた。

「俺は、文秀が好きだ」
「ああ、知っている。ありがとう、嬉しいよ」
「お前はいつもそうだ!嬉しいといってくれる割には、俺を抱いてくれないじゃないか!」
「輝也、お前は男だ。今は楽弥があの状態だから仕方が無いかもしれないが、いずれはお前も男として振舞わねばならないときが来る」
「違う、俺は女だ!」
「自覚しろ、お前は男だ」
「いやだ、俺は文秀が好きなんだ!」

 言うなり立ち上がり、輝也は大きく息を吸った。
 そして朗々と語るように、歌いだした。

  北方有佳人       北方に佳人有り
  絶世而独立       絶世にして独り立ち
  一顧傾人城       一たび顧みれば人の城を傾け
  再顧傾人国       再び顧みれば人の国を傾く
  寧不知傾城与傾国    いずくんぞ傾城と傾国を知らざらんや
  佳人難再得       佳人再びは得難し

 その光の無い瞳には、輝也の精一杯の抵抗の色が見て取れた。歌い終えた輝也はぜえぜえと肩で息をしていて、その瞳はぽってりと熱を孕んでいる。「輝也、おいで」文秀がそういうと、輝也は手を伸ばした。その手を取って、文秀は再び、輝也をその胸に抱いた。輝也は大人しくそれに従った。
 輝也は、おそらく文秀の女への皮肉をこめて歌ったのだろう。しかし翔には、この歌が輝也自身を歌っているのではと思われた。これほどに美しく輝く四肢を持ち、そして感情を露わに想う人に伝えることができる。 
 文秀の心音を聞いて、輝也は落ち着いたようだった。

「文山の日本名は伊藤翔という」
「日本人の話なんか聞きたくない」
「翔の家族を、当家と俺達が殺した」

 輝也は文秀の胸に埋めていた顔を上げた。
 翔はだまってその話を聞いていた。

「どうだい、彼と話してみる気になったかい」

 輝也は、一瞬戸惑ったような表情を見せたが、すっと立ち上がって振り向いた。からりと襖戸が開き、女が会合の場が解散したことを告げた。

「それはどうかな。賢しらに不運を詳らかにするような男なんかに、俺は興味ない」
「残念だ。日本人の男同士、仲良くなれると思うんだが」

 そう言って、文秀は苦笑した。女に手を引かれ、輝也は部屋を出て行き、ぱたんと襖戸が閉められた。 


 ***


 会合の部屋へ繫がる通路の入り口の壁に、久坂が背を持たれ、腕を組んでいた。

「是什么事情。日本人的住处应该说了没有(何の用だ。日本人の居場所は無いと言った筈だ)」

「梁续山的儿子怎样并非一定要暂时听。明白了乐弥的住处(梁 続山の息子はどうなのかとはあえて聞かないでおいてやろう。楽弥の居場所が分かった)」

 目の色を変え、久坂に振り返る輝也。気が高ぶった自分に戒めを掛け、改めて表情を引き締めると、その様子を満足げに見ていた久坂がその口元をゆがめた。

「是不是知道?(知りたいか)」

 こういう、もったいぶらせるようなこの男の態度に腹が立つ。

「不是。立即在这边安排了的伙伴发现吧(いや、いい。じきにこっちで手配した連中が見つけてくるだろう)」

 その場を去ろうとした輝也の後ろに久坂が言葉を投げかけた。

「在这边确保着乐弥。不找到你们在这边打算寻找多少吧(楽弥はこちらで確保している。お前たちがこちらでいくら探そうと見つかるまい)」

 輝也は改めて久坂のやり方に腹を立てた。振り返り、その光の無い目でその日本軍の将校を睨み付けた。

「你…(貴様…)」
「这个那样发怒的。预先托付了给我的相识。到那里到领取去本人就好了(まあそう怒るなよ。俺の知り合いに預けておいた。そこに身柄を引き取りにいくといい)」
「是相识?(知り合いだと?)」

 久坂は、輝也の目の高さまで屈み、そしてその耳元で囁いた。

「是舍人耕三郎地方。好象误解着告诉。在这个大陆什么是起来着,并且今后还是发生什么,全部掌握那些是我们,日军(舎人 耕三郎のところに、だ。勘違いをしているようだから教えてやる。この大陸で何が起きているのか、そしてこれから何が起こるのか、それらをすべて把握しているのは我々、日本軍だ)」

 久坂はそれだけ告げると、その口元に笑みを湛えたまま、ちらほらと雪の舞う湖南楼の出口へと消えていった。


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作者


Author:kanayano
16歳の時に書いた脚本のエチュードを書き連ねています。
かなやのぶ太名義、私生活ブログはこちら

最新記事

目次

※カテゴリは話数降順に並べておりますので、こちらから入っていただければスクロールでご覧いただけます。

■1、発芽―grow out― (65)
1、最後の恋人 (4)
2、北条古巻 (16)
3、少年と少女 (1)
4、はじまりの業火 (15)
5、月下の惨劇 (1)
6、「傾城傾国」 (28)
■2、着蕾―The bud― (54)
1、孝子、決別 (8)
2、青 (1)
3、吉岡輝也の憂鬱 (20)
4、田園都市、春 (18)
5、大陸の覇者※連載中 (7)
■ 番外『陸奥湾を抱く街』 (59)
1、明治37年、最上桔華 (8)
2、わたしの祖国 (11)
3、陸奥湾を抱く街 (9)
4、祭りのあとに (12)
5、裏切りの祖国 (13)
6、「いのち」 (6)
■番外『仮宿の楔』 (16)
1、奇人二人 (7)
2、「めらんこりあ」※連載中 (9)
読者様から頂いたイラスト (11)
from kanayano (9)

「本編」これまでのお話


<「5、大陸の覇者」登場人物>

伊藤 翔
21歳。幼いころに大陸に移住し、10歳の時に馬賊に家族を殺され、連れ去られた。18歳の時に家族の敵の一族を惨殺。現在は牢屋に投獄されている。支那名は梁文山(リャンウェンシャン)。
梁 生高(リャン シャンカオ)
38歳。父親は馬賊の統率者である「当家」梁続山。3年前、翔に父、母、弟を殺された。現在は周辺の「当家」を束ねる「攬把」。
李 爛華(リ ランホア)
23歳。村の青年。当家の一人。翔が村に連れてこられたころからの友人。
楊 和(ヤン フー)
18歳。字は子杏。爛華と同じく、翔を幼いころから知っており、獄中の彼の世話をしている。未亡人。

■「2、着蕾
大正4(1916)年。火事の中で記憶を失った弟・拓真の力になりたいと、自らも陸軍士官となることを決意した舎人孝子。日清両国の裏取引の対価として来日した吉岡輝也もまた、自らの庇護者である陸軍大将白河川修の計らいで、士官学校に入学する。奇しくも、士官学校予科では性別を偽って入学した孝子――雄一郎と名乗る――と同期であった。(1、孝子、決別
大陸進出を目論む帝国陸軍大佐久坂廣枝と、上海で裏を取り仕切る輝也の母親・仙楽弥が手を組んだ。楽弥の店で働く芸妓、宿禰緑子は、拓真と出会う。緑子は拓真に「また会いましょう」と告げて、その場を後にする。(3、吉岡輝也の憂鬱
大正9(1920)年。当代の人気歌人である最上桜花の下で暮らしている北条古巻。父親の愛人でもある桜花に、素直になれずとも平穏な日々を暮していた。身一つで転がり込んできた朝倉千鶴、桜花が朝鮮人街で助けた孫秀英。桜花と古巻の暮らしにも、新たな仲間が加わった。(4、田園都市、春

「番外」これまでのおはなし


2、「めらんこりあ」 登場人物>

舎人 耕三郎
陸軍大尉。27歳。
北条 古月
会社社長。26歳。会社の規模を大きくすべく、奔走している。
山方 明恵
16歳。美人だがめっぽう弁が立ち、家族から「奇人」と呼ばれている。そのせいで家を出た。
北条 篠
古月の妻。21歳。
北条 由枝
古月・篠の娘。4歳。

■「番外『仮宿の楔』
明治34年、東京。近衛師団に所属する舎人耕三郎大尉は、師団長・白河川修の来訪とともに、自分を訪ねる女の存在を知る。耕三郎を出せと叫ぶ女。そこに、耕三郎を知る商人、北条古月が通りかかる。女に帰れと宣う耕三郎。古月は女――山方朝重を連れて、一先ずその場を退いた。(1、奇人二人

おことわり

※当作品は物語のモチーフを実在の事件、人物に依拠していますが、事実関係は一切ございません。

※一部に暴力、流血、性的表現を伴う記事がございます。記事冒頭に注意書きを添えてありますので、閲覧の際にはご注意ください。

※本文中で中国語、ハングル、英語等の表現がありますが、作者の過小な語学力で作成しているため、ネイティブのものとは大きく異なる場合があります。ご了承ください。

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皇国の黒鷲

黒澤修吾の孫であり、吉岡輝也の甥にあたる、黒澤一臣総理が担う平成日本のかたちとは。緒方順様と共同制作です。


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