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少年と少女

 ***


 賛美歌が聞こえている。

 赤、青、黄色、緑。ステンドグラスが聖母を象り、その腕には神の子が抱かれている。

 正面には、黒い礼服を纏った祭司がいた。祭司は、白い肌に銀色の瞳を宿していた。祭司が何事かつぶやき、神の子が十字架に準えたロザリオをかざした。小さなホールに集まった14,5の村人は、襤褸に身を包み、日に焼けた顔は土にまみれ、祭司に向けた両手は肉刺がつぶれ、赤茶げている。彼らは手を合わせ、見えない何かにすがるよう、声ともいえない声を上げながら、何度も何度もひれ伏しては泣き顔を祭司に向けて、また伏せて、また顔を上げる。

 優艶な薄い煙が、空間を支配している。甘い、饐えた匂いが五感を徐々に蝕んでいく。

 オルガンが、村人たちを導くように鳴いた。

 村人は唸る様な声で、聞こえている賛美歌の後を追っている。細く、気高い天使のような歌声は、正面にいる祭司の、後ろから聞こえている。祭司は跪き、歌い手の左手の甲に口付けた。暗がりの影に、差し出された左手は真珠のように白く、人間の血を宿していないかのような細さだった。その手がやがて村人をいざなうように差し出された。オルガンが空間を劈き、人々は何かに押しつぶされるかのようになだれ落ち、頭の上で手を合わせ、歓喜に震えた。

 『神よ』

 祭司に向かって、村人から言葉が放たれた。それに続くように1人、2人と祭司に言葉を浴びせ始めた。やがてそれが木霊し、合唱となり、賛美歌を打ち消し始める。歌は、まだ続いている。祭司は歌の主をちらと見た。その白い手首が、ゆっくりと持ち上がり、ホールの後方を指差した。「神よ」「神よ」の声はやがて消え、村人は示された後方を振り返る。そこには、白い肌に銀の瞳を宿した、黒髪の少女と、赤髪の少年がうずくまっている。

 「くるな、狂人どもが」

 赤髪の少年が黒髪の少女を庇いながら、そう吐き捨てた。僅かに反応したのは祭司。村人は何も聞こえていないかのように、黒髪の少女に手を伸ばし始めた。

 「神よ」
 「神の子よ」

 少女は目に見えて震え始めた。少女は少年の胸の中で、「I am scared.」「painful…」 と消え入りそうな声で何度も呟いた。少年は「It is not scary. 」と少女に言い聞かせた。彼女を抱く、腕に力がこもる。しかし村人たちはすがるような目で2人に近づき、そしてその赤茶げた手で少女に触れた。少年は壁伝いに少女とともに逃げようとしたが、子供の体力では扉の端までくるのが精一杯だった。黒髪の少女は村人に抱き上げられた。途端に歓声が沸いた。泣き出すものもいた。少年はその場で殴られ、蹴られ、ぜいぜいと肩で息をしていた。少女が少年へ手を伸ばし、助けてほしいとせがむその目を見ることができたが、指を動かすこともできなかった。

 「・・・りょ、く」

 少年の声は神を称える声にかき消され、少女は祭司の下へ差し出された。祭司が怯える少女の左手に口づけをする。影の後ろの白い腕が、やがて人間の女となった。それは、少年と少女の母親でもあった。

 「神よ!」

 村人の意気は盛り上がった。少女は祭司の手を一度振り払ったが、難なく捕らえられ、抱き上げられた。少女は少年の名前を呼びながら、必死に抵抗した。しかし祭司はそれを気にする様子もなく、奥の扉の向こうへ消えていった。

 一度あけられた扉から、妖艶な甘い香りが漂い、それが一層村人を高ぶらせる。

 村人たちは、先ほどは神と崇めていた女に群がり始めた。男も女も、老いも若いも関係なく、その赤茶げた手で、足で、女を嬲っている。彼らの黒い肌に、女の白い肌が嫌に際立っていた。少年は辛うじて意識を保ちながら、女が衣服を剥ぎ取られ、その細い手足を村人に絡めながら高ぶっていく様子を見据えていた。女の嬌声は、賛美歌のように美しかった。

ーーー・・・俺は、お前たちとは違う・・・

 少年は、何度となくこの光景を見ていた。そしてまた、同じように意識を失った。


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2010/08/12(木)
3、少年と少女

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